デザインが印刷でぼやける理由(DPIとキャンバスサイズ)
近所のカフェが、秋の新メニュー告知用に A5 のチラシを 500 枚発注しました。ノートパソコンの画面では完璧でした。届いた箱を開けると、どれもぼんやりしていました。見出しの縁は毛羽立ち、小さなコーヒーのアイコンは二度コピーしたように潰れ、電話番号は読み終える前に「これは変だ」と気づく類のぼやけ方でした。3万円が、そのまま古紙回収へ。
デザイン自体には何の問題もありませんでした。デザインが印刷でぼやけるのは、入稿前に誰も確認しなかった一つの数字のせいです。中に何ピクセル入っていたか。画面は寛容ですが、紙はそうではありません。多くの人の「初めての印刷」は、この落差で死にます。
その数字と、裏にある計算と、本当の原因3つ——AI の高解像度化では絶対に救えないものも含めて——を書きます。
ぼやけた印刷の裏にある唯一の数字:DPI
DPI(1インチあたりのドット数。ここでは PPI とほぼ同義です)は、オンにする設定ではありません。割り算の答えです。
ピクセル ÷ インチ = DPI
それだけです。横 1080 ピクセルの画像を 3 インチ幅で印刷すれば 360 DPI で、くっきり出ます。同じファイルを 12 インチ幅で印刷すれば 90 DPI で、出来の悪いファックスのようになります。ファイルは変わっていません。変わったのは、どこまで引き伸ばしたかだけです。
画面はおおよそ 1インチあたり 72〜110 ピクセル。だからノートパソコンでは何もかも良く見えます。商業印刷が求めるのは、人が手に持つものについてはおよそ 300 DPI です。
カフェのチラシに戻ります。A5 は 5.8 × 8.3 インチ。300 DPI なら必要なのは:
- 5.8 × 300 = 横 1748 ピクセル
- 8.3 × 300 = 縦 2480 ピクセル
彼らのファイルは 1080 × 1350 でした。Instagram の標準的な縦型キャンバスです。直前に作ったものがそれだったから、というだけの理由で。割り算を逆にしてみます。1080 ÷ 5.8 = 186 DPI。壊滅的ではないけれど、くっきりでもない。スマホでは良く見えて、紙になると安っぽく見える、ちょうどその程度のぼやけ具合です。
正しいキャンバスサイズから始める
これが解決策のすべてで、デザインを始める前に済ませる必要があります。あとからでは間に合いません。仕上がりの物理サイズを決めて、300 を掛けて、そこから始めてください。
| 何を刷るか | インチ | 300 DPI でのピクセル |
|---|---|---|
| 名刺 | 3.5 × 2 | 1050 × 600 |
| ポストカード | 6 × 4 | 1800 × 1200 |
| 5×7 の招待状 | 5 × 7 | 1500 × 2100 |
| A5 チラシ | 5.8 × 8.3 | 1748 × 2480 |
| レターサイズ | 8.5 × 11 | 2550 × 3300 |
| A4 ポスター | 8.3 × 11.7 | 2480 × 3508 |
| A3 ポスター | 11.7 × 16.5 | 3508 × 4961 |
| 3インチのステッカー | 3 × 3 | 900 × 900 |
この表を印刷して、どこかに貼っておいてください。印刷がぼやける問題の九割は、単にSNS投稿用のキャンバスでポスターを作ってしまった、というだけの話です。
印刷を実際にぼやけさせる3つの原因
1. 最初からキャンバスが小さすぎた。 上に書いたやつです。そしてこれは、あとから直せない唯一の原因でもあります。完成した 1080px のデザインを 2480px に引き伸ばしても、ディテールは生まれません。すでにあるぼやけが大きくなるだけです。正しいサイズで作り直してください。面倒ですが、二十分と、もう一度の3万円との比較です。
2. 配置した画像の一枚が小さすぎる。 これは厄介です。デザイン自体は問題ないからです。自社サイトから自分のロゴを保存して——サイトにはそれで十分なので横 200 ピクセルしかありません——ポスターの3分の1まで引き伸ばす。ほかは全部くっきりしているのに、ロゴだけ溶けて見える。デザイン全体ではなく、配置した画像を一枚ずつ、印刷される実寸で確認してください。
3. 1× で書き出した。 すべて正しくやったのに、最後に小さい方をダウンロードした。キャンバスが画面サイズで、ツールが 2× や 4× の書き出しを用意しているなら、その倍率は本物のピクセルで、あなたを救ってくれます。キャンバスがすでに印刷サイズなら、1× で書き出して問題ありません。
高解像度化はディテールを戻さない
ここははっきり言う価値があります。AI のアップスケーラーは今どこにでもあり、ある仕事には本当に強く、別の仕事には本当に弱いからです。
写真なら、アップスケーラーはもっともらしい質感を捏造し、目はそれを受け入れます。肌、葉、布地、ぼけたカフェの内装——問題ありません。使ってください。
しかしエッジがあるもの——ロゴ、アイコン、画像に焼き込まれた文字、QRコード——では、捏造された「それらしいディテール」は間違いです。文字の骨格が波打ち、直線が蛇行し、QRコードは読み取れなくなることさえあります。200px のロゴを、元の姿をモデルに想像させて直すことはできません。
エッジに対して常に効く解決策は、そもそもピクセルを使わないことです。ベクターデータ——ロゴ、アイコン、QRコード、幾何学的な図形——には解像度がありません。命令の集まりなので、3インチでも3フィートでも同じだけ鮮明です。印刷所が「ロゴはベクターで」と言うのはこれが理由で、回り道でごまかすより元データを探し出す価値があります。
例外:遠くから見る大きなもの
300 DPI は、手に持つもののための数字です。横断幕にとっては馬鹿げています。
必要な DPI は視距離とともに下がります。目は遠くのディテールを分解できないからです。おおまかな目安:
- 手に持つもの(チラシ、カード、メニュー、招待状)——300 DPI
- 腕の長さ〜1メートル(壁のポスター、卓上サイン)——150 DPI で十分すぎるほど
- 部屋や駐車場の向こう側(ターポリン、横断幕、ロールアップ)——50〜100 DPI
この最後の帯域は、思われている以上に重要です。4 × 3 フィートのターポリンを 300 DPI で作ると 14,400 × 10,800 ピクセル——パソコンが窒息し、しかも印刷所は一度も要求していないファイルになります。大判プリンターは、意図的に低い DPI を前提にしています。このトレードオフはターポリンのレイアウトの記事で詳しく書きました。同じ理屈がTシャツのプリント範囲のキャンバスも決めます。
入稿前の2秒でできる確認
100% に拡大して、デザインの中でいちばん小さい文字を見てください。見出しではなく、電話番号、住所、注意書きの行です。
ぼやけが最初に出るのは文字です。文字の形は、突き詰めればエッジしかないからです。小さい文字が 100% で鮮明なら、印刷も鮮明になります。画面上の 100% でぼやけているなら、紙の上ではもっとぼやけます。この確認ひとつで、ほぼすべてを捕まえられます。
Ridvay Studio で入稿できるチラシを作る
キャンバスサイズをわざわざ口に出す価値があるのは、AI デザインツールが「間違った寸法の、きれいなもの」を喜んで渡してくるからです。だからプロンプトの中で現物の名前を言ってください。Studio は、頼まれたものに合わせてキャンバスを決めます。
近所のカフェの秋の新メニュー告知用に、入稿できる A5 チラシをデザインして。温かみのあるクリーム色の背景、ダークグリーンのアクセント1色、大きなセリフ体の見出し、価格つきのメニュー4品、下部に住所と電話番号
返ってくるのは、何かが気に入らないたびに作り直す平らな画像ではありません。編集できるデザインです。見出しも、メニューの各行も、アクセントの図形も、背景も、それぞれ独立したレイヤーで、クリックして変えられます。これがここでは効いてきます。印刷は、画面が隠していたものを暴くからです。
- いちばん小さい文字——電話番号——をクリックして、サイズを上げる。 27インチのモニターでちょうど良く見える級数は、手元の A5 では本当に読みにくい。仕上がりで 8pt を切るあたりからは賭けです。
- ロゴのレイヤーを、サイトから取ったものではなく本物のロゴファイルに差し替える。 原因その2そのもので、ほかが鮮明なデザインの中でいちばんよくあるぼやけたレイヤーです。
- アクセントを実際のブランドカラーの緑に変える。 あるいはブランドキットを適用して、これ以降作るチラシすべてで配色とフォントが揃うようにする。
- 選べる中でいちばん大きい倍率で書き出す。 ただでもらえるピクセルです。印刷所に小さい方を送る理由は、どこにもありません。
印刷所に送る前に
短いチェックリストを、順番に:
- キャンバスは物理サイズ × 300(壁のポスターは × 150、ターポリンは × 100)。
- 配置した画像を、印刷実寸で一枚ずつ確認した。
- ロゴ・アイコン・QRコードは、手に入る限りベクターにした。
- いちばん小さい文字を 100% 拡大で確認した。
- 選べる最大倍率で書き出した。
どれもデザインの才能ではありません。最初に一度だけやって、あとは二度と考えなくていい算数です——いちばん良い種類のルールです。
カフェは 1748 × 2480 で刷り直しました。同じデザイン、同じ金額。今度はカウンターの向こうからでも電話番号が読めます。